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松山地方裁判所 昭和40年(行ウ)12号 判決 1973年3月31日

愛媛県周桑郡壬生川町大字壬生川一一四番地

原告

壬生川青果株式会社

右代表者代表清算人

安藤竹夫

右訴訟代理人弁護士

白石基

西条市明屋敷

被告

伊予西条税務署長

水沢正幸

右指定代理人

河村幸登

右同

大歯泰文

右同

松下耐

右同

小沢康夫

右同

真鍋勝

右同

民谷勲

右当事者間の昭和四〇年行(ウ第)一二号課税処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が昭和三八月一二月二七日原告に対してなした清算所得金額七二八万一、八三五円、法人税額三〇八万七、二九〇円とする更正決定および重加算税一〇八万〇、四五〇円とする賦課決定処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、 当事者の求めた裁判

一、 原告

主文同旨。

二、 被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、 当事者の主張

一、 原告の請求原因

1. 被告は原告に対し昭和三八年一二月二七日付で原告の解散による清算所得金額を七二八万一、八三五円、法人税額を三〇八万七、二九〇円とする更正決定および重加算税一〇八万〇、四五〇円とする賦課決定処分をなした。

2. 原告は被告に対し、昭和三九年一月八日右処分について異議申立をしたが、同年三月二四日これにつき棄却の決定がなされたので、さらに原告は訴外高松国税局長に対し昭和四〇年七月二九日その審査請求をしたところ、右高松国税局長は昭和四〇年七月二九日これにつき請求棄却の裁決をなした。

3. しかしながら、原告の清算所得は確定申告書記載のとおり二七万七、七四三円の清算損で被告の右処分は清算所得を過大に認定した違法がある。

二、 被告の認否

請求原因1.2.を認め同3.は争う。

三、 被告の抗弁

1. 被告は原告の清算所得金額を左のとおり加算、減算して算出したものである。訴外愛媛農産加工有限会社(以下愛媛農産という)に営業譲渡した対価を一、二五〇万円と認定し、これに計上もれの預金利息一万一、八七四円(訴外今治信用金庫壬生川支店分一、〇八七円、訴外香川相互銀行壬生川支店分一万〇、七八七円)、商工会議所出資金二、五〇〇円の売却違算、申告上の固定資産処分損二六万三、〇七三円を加算し、これより固定資産の帳簿価額合計五二六万〇、五七三円、出資金二、五〇〇円、清算費用八万六、六九五円、残余財産の価額が解散時の資本金に満たない金額一四万五、八四四円(資本金三五〇万円と申告上の残余財産の価額三三五万四、一五六円との差額)を控除した金額七二八万一、八三五円を清算所得金額としたものである。

なお税額の計算については旧法人税法第一七条第一項第三号(昭和三七年法律第四五号、以下同じ)に基づき、前記清算所得金額のうち、積立金から成る部分の金額一九万〇、八八二円については一〇〇分の二〇、それ以外の金額については一〇〇分の四三の税率により法人税額を算出したものである。

2. なお原告は営業譲渡代金を分割仮装してその一部を隠ぺいしたところに基づいて法定申告期限後に申告書を提出したので、国税通則法第六八条第二項(昭和三七年法律第六六号)によって重加算税を課したのである。

3. 原告主張の訴外愛媛農産の訴外壬生川青果仲買人組合(以下仲買人組合という)に対する七五〇万円の貸付金行為は仮装であって、被告は右金員を訴外愛媛農産より原告に対する買収(営業譲渡)の代金として交付されたものであると認定したが、その根拠は次に述べるとおりである。

(一)  青果物市場の買収が行われる場合には営業権に対する代価が支払われるのが普通の取引慣行である。

(二)(1)  訴外愛媛農産の本件買収の動機がすでに丹原市場を買収したことに加えて、さらに原告を買収することにより訴外愛媛農産は周桑郡内のすべての青果物を統制することができ、品目の調達、価格の安定等を図って市場経営による利益を壟断することができるということにあつたのである。(甲第一および第二号証参照)

従って訴外愛媛農産が原告をその土地、書物、およびその他の動産のみの対価で買収することができるということは考えられず、又七五〇万円が市場から離れた単独の存在としての仲買人個人に対して恩恵的に金銭を贈与しょうという趣旨で支出されたものでもなく、場所的利益、顧客関係等市場という企業を構成する事実上の利益(営業権)に対する対価として支出されたものである。

(2) なお補足するに、本件買収の動機は次に見るように原告の経営不振によるものでなく、訴外愛媛農産の市場の独占的支配による利益の壟断にある。即ち原告は原告の法人税確定申告書添付の貸借対照表によると、別紙記載のように設立以来毎事業年度利益をあげて好成績のうちに順調な発展をしていることが明らかであり、特に第七期事業年度においては土地を買収して市場建物を新築し、さらに一層の発展を期し、また昭和三五年八月三一日までの各事業年度において外部負債たる借入金は第四期における三〇万円にしかすぎなかつたのであるから、原告は本件買収が行われるまで健全な経営状態にあつたのである。

問題となる売掛金について検討してみるに、別紙記載のように経営規模が拡大するにしたがつて売掛金が増加しているが、この売掛金を右貸借対照表に示されている資産と負債のバランスから常識的に判断しても、いわゆる身売りをしなければならないほど多額であるとはいえないのであつて、全体として原告は終始均衡のとれた財政状態を維持し、健全な経営がなされていたものといえるのである。

(三)  真実、仲買人の市場に対する売掛金を解消し、仲買人を育成するという目的で七五〇万円が支出されたのであれば、該金員は売掛金の多寡を基準とするが、或いは一律に同額で仲買人に分配されるべきであるが、実際には原告会社の持株数(原告の仲買人は同時に原告の株主である。)に応じて、あたかも譲渡益の分配の様な形をとって分配されたのである。

(四)  甲第一号証、第二号証の二を検討すると判然とするように、七五〇万円という金員の支払が、資産譲渡代金五〇〇万円とともに本件買収と密接不可分の関係において、常に検討され、金額についても両者を合計したものの多寡という観点から交渉が行われている。即ち訴外周桑青果農協および訴外愛媛農産(愛媛農産は周桑青果農協の子会社であって、その資本金のみならず運転資金をはじめ代表取締役その他人的構成もすべて周桑青果農協に仰いでおり、本件買収資金も同組合が支出している。)はひきつづき原告の市場を経営していくためのキイポイントとして七五〇万円を支出しなければ、市場経営という本件買収の本来の目的を達成することができないと考えていたのであり、他方原告内部においても原告の解散を承認する条件として七五〇万円の支払を受けることをあげているが、これは単に七五〇万円の支払を受けなければ解散を承認しないというにとどまらず、本件買収をも承認しないということをも意味していたのである。

(五)  七五〇万円という金額は買収後の被買収市場からの年間予想売上金額を基準として算出されたものである。原告の受託手数料は自昭和三六年九月一日至昭和三七年四月二七日間に二三七万五、〇一六円であつたから、手数料の割合が売上金額の六パーセントとして、買収前の売上高は約六、〇〇〇万円であつたと推定される。

そして、買収後は周桑郡内において他の市場が事実上存在しないこととなって、売上金額が通常の場合以上に急速に増額することを考えれば、七、五〇〇万円という年間予想高は妥当なものということができる。したがつて、売上高を基準にして七五〇万円という金額を算出したということはとりもなおさず、営業権をある一面から評価したものということができ、しかも市場の独占による利益を加味した営業権の評価として通常の方法による極めて妥当なものと言わぢるを得ない。

(六)  七五〇万円の究極の受領者は仲買人である。そして仲買人は原告の株主であるから、七五〇万円の受領者は原告の所有者兼経営者兼顧客である。もし七五〇万円が原告と無関係な者に対して支払われたのであるならば、七五〇万円を営業権の対価であると考えるのは拳強附会のそしりを免れないであろう。しかし、仲買人は右のような関係にあり、原告の企業体として重要な構成要素をなしていたものであるから、これら仲買人に対して支払われた七五〇万円を営業権の対価とみても何も不自然な点はないのである。

(七)  原告が本件資産の譲渡代金として取得したと主張する五〇〇万円について考えてみるに、原告が毎事業年度において減価償却費を控除して計算してきた減価償却資産の譲渡直前の帳簿価額は建物(建物は昭和三六年一月ごろ新築された建物であって到底老朽無価値の建物であるということはできない。)および設備二〇四万〇、八七五円、車輛運搬具二五万四、九二一円、什器備品一一万〇、三二七円、となっており減価償却の対象とならない土地の帳簿価額は二八五万四、四五〇円となっているから、譲渡された有形資産の帳簿価額の合計額は五二六万〇、五七三円であった。このうち土地を例にとってみても譲渡当時の時価は三二〇万円を下らないと推定できるにもかかわらず、これを所得した訴外愛媛農産は当該土地を二〇〇万円として受け入れしている。本件取引では営業権を譲渡されたのであるが、有形資産だけをとりあげてみても五〇〇万円という金額は右有形資産の時価よりも低く、且つ帳簿価格をも下廻る価額であるというべく、事実上の利益(営業権)をも含めた有機的な組織体として単なる物的諸設備の集合以上の価値を有する市場の営業権譲渡代金としてはあまりにも取引の常識に反した異常なものといわざるを得ない。まして、土地、建物、個々の動産等を有機的な組織体である企業から分解して個々別々に評価し、その合計額をもって企業全体の買収対価とするのは取引の常識に反し、極めて不自然であると言わざるを得ない。

(八)  七五〇万円を営業権の価額であると考えても、不当に多額であるということはできない。訴外愛媛農産は昭和三六年度において訴外丹原青果市場を買収したが、同市場は個人経営で仲買人も四〇名程度であって、原告の仲買人二一三名に比較すれば一八パーセント程度の極めて小規模の市場であった。右愛媛農産はこの丹原市場の買収対価として営業権につき、一二五万円を支払った。ところで本件買収につき物的設備自体に対する対価が低額であることをも考えあわせると、七五〇万円を営業権の対価とみても不相当であるということはできない。

(九)  七五〇万円が買収対価の一部であることは、原告の清算所得の分配状況を見ると一層判然とする。

(1) 原告は第一回清算所得の分配として昭和三七年四月二七日現在における株主に対する歩戻し預り金の未払額金三八万七、九三一円、預り金の利子未払金四万六、四一七円および借入金未払額一一六万九、九八四円、小計一六〇万四、三三二円と、更に解散時の払込済資本金額三五〇万円との合計五一〇万四、三三二円を支払っているが、他方申告期限後である昭和三八年一月四日原告が被告に提出した昭和三七年五月三一日現在の清算所得の申告書添付の残余財産分配当時の貸借対照表(七五〇万円を除外したところの計算書)によると分配可能財産は現金三三五万四、一五六円となっているから、これを三五〇万円から控除した残額一四万五、八四四円については資本金額の払い戻しができないはずのものである。しかるに、前記のように原告会社は資本金額の全額を支払っているのであるから、その財限としては七五〇万円がこれに充てられたものと考えざるを得ず、このことはとりもなおさず七五〇万円は原告の残余財産として処理されたことを意味する。

(2) 原告は昭和三七年五月一六日貸付金の分配と称して六八二万五、二五〇円を持株数に応じて分配しているが、これとは別途に六一万四、〇〇〇円をつぎのとおり、訴外安藤竹夫外一〇名の役員等に分配している。

安藤竹夫 九万四、〇〇〇円

稲井夏好 五万五、〇〇〇円

一色喜三郎 五万五、〇〇〇円

園延房太 五万五、〇〇〇円

矢野勇吉 五万五、〇〇〇円

真鍋貞次郎 五万五、〇〇〇円

柴田堅 四万〇、〇〇〇円

鈴木増太郎 五万〇、〇〇〇円

吉原元男 五万〇、〇〇〇円

鈴木利鬼三 五万五、〇〇〇円

砂田寿江 五万〇、〇〇〇円

(原告主張の仲買人組合役員と称する者は右砂田を除いた一〇名以外にも一九名の多数にのぼる。)

原告の主張するとおり七五〇万円が真実仲買人組合に帰属するものであれば、このうちから原告の役員等が持株数の割合によらない金員の分配を受けることはできないはずのものであるにも拘らず、右六一万四、〇〇〇円が分配されていることは七五〇万円が原告の自由に処分することのできる残余財産であったことを如実に示しているのである。

(3) 原告の法人株主として仲買業を営んでいる者のうち帳簿組織を有し比較的正確に記載されていると認められる左記三名について調査したところ、

(イ) 訴外株式会社真田商店は原告から前記(1)および(2)に相当する払戻金として昭和三七年五月一五日、清算所得金四万四、三一一円、売掛未収金五、〇〇〇円、合計四万九、三一一円を受領し、内金二万三、八一一円を雑収入として記帳している。

(乙第四号証参照)

(ロ) 訴外有限会社金子商店は右同様合計五万一、六二五円は出資金の払戻しである旨確認している。(乙第五号証参照)

(ハ) 訴外周桑農産加工農業協同組合も同様に二万〇、〇五五円を雑収入として記帳している。(乙第六号証)

ことが判明した。

このことにより、右三名は第一回並びに第二回分配金を出資金の払戻し、即ち原告の清算終了にもとずく残余財産の分配金として右金員を受領したものであることが明らかとなるのである。

4. 以上のとおり、訴外仲買人組合に対する貸付行為は仮装行為として無効である。又、七五〇万円は右仲買人組合に対し助成金として無償で交付されたかというに、このように考えることもできない。

(一)  訴外仲買人組合は原告の解散総会開催の日、すなわち昭和三七年四月二七日に結成され、初代組合長に訴外園延房太氏が就任したが、同年七月ごろ同人は組合長を辞任し、第二代組合長に訴外真鍋貞次郎が就任した。

しかるに、七五〇万円の貸付契約書(甲第五号証)によると同年五月三一日付で借受人組合長真鍋貞次郎なる名義で契約が締結されたことになつており、右契約書は全く信用できない。又、訴外愛媛農産との間に締結した壬生川市場経営に関する契約書(甲第八号証)は右仲買人結成の日である同年四月二七日作成されたが日付のみを同年四月一日としている。

従って買収交渉の過程で育成金とか貸付金とかいう名目で右仲買人組合に金員を交付するかどうかが検討され、結局その金額が七五〇万円ということに落着したのであるが、その交渉の段階および金額について落着をみた段階においては、まだ仲買人組合なるものは結成されていなかつたことを考えると、買収の交渉担当者がほしいままに仲買人組合なる名義を利用して、買収対価の一部を該組合に交付するという形式をとり、仲買人が同時に原告の株主であることと相まって七五〇万円についての交渉が原告に支出されるものとして原告のの間でなされたことを示すのである(その一部について課税を免れることが究極の目的であつたと推祭される。)。従つて訴外愛媛農産と仲買人組合との間には貸付行為も無償で金員を交付する行為も存在しなかつたといわざるを得ない。

(二)(1)  たとえ貸付という行為が形式上行われたとしても、それは無利息であること、並びに返済期日および返済方法は、貸付の一年後から一〇回に分割して毎年七五万円を返済することとしているが、これと同時に同期間毎年同額の助成金を右仲買人組合に交付することとし、しかもその返済金と助成金とを相殺するということになっているから、右仲買人組合としては結局利息、或いは貸付金の返済等いかなる名目の金員も訴外愛媛農産に対して支払うことを要しないということになつているのである。従って、訴外愛媛農産としては貸付金の返還を受けるという意思を欠き、貸付という形式をとったとしても貸付行為としては無効である。

(2) もつとも、右愛媛農産と仲買人との間に仲買人組合なるものを介在させ、しかも前記のような貸付行為と助成金の交付という行為(税法学上多段階行為といわれている。)を行わざるを得ない合理的、経済的理由がある場合には各行為は適法、有効になされたものといわざるを得ないのであるが、本件においてはそのような理由は全く見出せないのである。

5. 仮に右貸付行為が仮装行為でないとしても、訴外仲買人組合は七五〇万円につき単なる契約名義上の借主に過ぎず、経済的実質的には原告が本件買収代金の一部としてこれを受領し、経済的利益を享受したものであるから原告は右金員につき納税義務を負わなければならない。(旧法人税法第七条の三)

6. さらに、仮に右貸付行為が仮装行為ではなく、訴外仲買人組合が実質的経済的に右貸付による利益を享受しているとしても、右貸付行為は租税回避行為であるといわなければならない。即ち右買収および貸付の各交渉は原告の役員と訴外仲買人組合の理事とを兼ねた同一人物により行われたものであり、該交渉担当者は原告の法人税を免れる意図のもとに、実質的には買収代金と認められる七五〇万円を訴外愛媛農産からの借受金として受領したものであるが、該借受行為たるや、その将来の返済が助成金の交付という行為と相殺されるという形式で結局何らの金銭の移動を伴わないのみかこの移動を要しないという通常の経済人の金銭消費貸借としては全く異常かつ不合理な形式により行われたものであり、かつこれにより終局的には原告が買収代金として受領し、これを株主である仲買人に分配したのと同様に該金銭消費貸借による利益が、訴外仲買人組合にではなく、株主たる仲買人個人に帰属したものである。また本件買収代金五〇〇万円は通常の経済人の取引としてはあまりに低額すぎる。

このようなことを勘案すれば、訴外仲買人組合による訴外愛媛農産からの七五〇万円の借受行為は脱税のためにする法形式の濫用であるといわざるを得ず、被告としてはいわゆる租税回避行為として右借受行為を否認し、通常の経済人がとるであろう法形式、即ち七五〇万円を原告の買収代金の一部として認め、これに対し課税せざるを得ないのである。

四、 被告の抗弁に対する原告の否認

1. 抗弁1.のうち営業譲渡代金一、二五〇万円のうち七五〇万円は争い、その余は認める。

2. 抗弁2.3.(一)は争う。

3. 抗弁3.(二)(1)は争う。原告解散の理由は後記抗弁3.(二)(2)の認否で述べるように経営不振に起因する(換言すれば訴外周桑青果農協の資本および人的系列下に属する訴外愛媛農産による市場再建にあつた)から、かような不振経営に対して七五〇万円という多額の代償が支払われるということは取引常識からは到底考えられないし、訴外愛媛農産の本件買収は壬生川市場の経営者が原告から訴外愛媛農産に交替したというだけであり、既存の市場経営者が独占利益の償害を控除するため、地区内の競争相手を買収するというのではないから、買収により必然的に独占利益が発生したり増大するということは論理的に考えられない。この点からも七五〇万円が各仲買人の買掛債務の減少又は決済を援助することによりその協力を確保するもとに支出されたことが自からうかがえるのである。

4. 抗弁3.(二)(2)について、別紙記載の第七期中に土地を買収して建物を新築したこと、第六期末までに借入金は第四期中の三〇万円だけであつたこと、および別紙記載の表は認める。原告が第七期中における土地買収および市場建物新築のための資金借入に加えて回収できない売掛金の増大によつて経営不振に陥り、解散の已むなきに到ったことは間違いない事実である。単なる貸借対照表の数値だけからは現実の経営状況は容易に憶測できない。

5. 抗弁3.(三)について、被告主張の買掛金の多寡を基準とすると不誠実な仲買人を利することになるから公平上問題とならず、又一律分配は仲買人の市場に対する協力度合が全然考慮されない結果となるので、各仲買人の持株数を一応協力度合の尺度としてこれを分配することが差し当り最も公平であると考えたものであつて、仲買人の協力の度合によっては助成金の交付を拒否し、又は減額することができる建前になつているから、七五〇万円を目して残余財産の分配であるということは明らかに誤解である。

6. 抗弁3.(四)について認める。但し、訴外周桑青果農協らが五〇〇万円と七五〇万円を同時に検討したというだけで両者が不可分の関係であるというのは当らない。

7. 抗弁3.(五)について、争う。殊に買収後は周桑郡内において他の市場が存在しないこととなって、売上金が急速に増額するという被告の主張は全く誤りである。何とならば、本件買収は市場経営者の交替を意味するだけで、市場数に増減はないのであるから、既存市場が地区内の競争市場を買収する場合と異り、買収自体によつて売上額が増加すべき論理的必然性はないはずである。

8. 抗弁3.(六)について、七五〇万円の究局の受領者は仲買人であること、仲買人は原告の株主であるから、七五〇万円の受領者は原告の所有者兼経営者兼顧客であることは認める。

9. 抗弁3.(七)について、償却資産および土地の帳簿価格が被告主張のとおりであることを認める。その余を否認する。

なお、原告会社の有形資産について一言するに、(イ)土地の時価が三二〇万円であり、(ロ)地上建物は老朽木造建物で、借地権を伴わないものとして建物だけを評価すれば、ほとんど無価値に等しいものであり、(ハ)ダイハツ三輪車二台は下取価格二台分八万円にすぎない、(ニ)電話加入権は時価五万円であり、(ホ)その他ロッカー一個、机、椅子各五個で約五、〇〇〇円、百キロ台計り約三、〇〇〇円程度であり、以上がそのすべてであるから、五〇〇万円という金額は有形資産だけの評価額よりはるかに高額であり、従って営業組織体の譲渡代金として適正且つ妥当な額というべきである。およそ償却資産の帳簿価額は、法定減価率の関係で現実の価額よりも相当高くなることは経理上公知の事実であるから、帳簿価額に立脚しての立論は無意味である。

10. 抗弁3.(八)について、訴外愛媛農産は昭和三六年度において訴外丹原市場を買収したこと、同市場は個人経営であったことを認め、その余を否認する。訴外丹原市場の仲買人は約一〇〇名であり、営業権の対価は一〇〇万円で、二五万円は右仲買人に対する助成金である。訴外丹原市場買収に祭し、営業権の対価を支払つたのは、同市場の営業実績が良好であったことに基づくもので、業績不振のため解散した原告市場の買収条件と同一に論じることはできない。

11. 抗弁3.(九)(1)について、認める。但し、分配可能財産である現金三三五万四、一五六円と資本金額三五〇万円との差引不足額一四万五、八四四円は原告代表者である訴外安藤竹夫が責任上補填支出したもので、交付金七五〇万円から支出されたものでないことは、同金額から持株数による分配金六八二万五、二五〇円および別途分配金六一万四、〇〇〇円計七四三万九、二五〇円を差引控除すれば残額は六万〇、七五〇円となるに過ぎないことを考えれば明らかである。

12. 抗弁3.(九)(2)について、認める。但し、訴外安藤竹夫外一〇名に対する別途分配金六一万四、〇〇〇円は原告役員としての右一一名に分配されたのではなく、訴外仲買人組合役員に対する功労金として分配されたものであるから、本件七五〇万円が原告会社に帰属する残余財産であるとする根拠にはならない。

13. 抗弁3.(九)(3)(イ)(ロ)(ハ)については不知。

14. 抗弁4.(一)について、壬生川市場経営に関する契約書(甲第八号証)の作成日および日付の記載が被告主張のとおりであることは認めるが、その余を否認する。訴外仲買人組合は昭和三七年四月二七日以前から事実上存在していた。又初代組合長園延房太は昭和三七年五月中既に事実上辞任していたものである。

15. 抗弁4.(二)(1)について、七五〇万円の貸付金が無利息であること、ならびに返済期日および返済方法は貸付の一年後から一〇回に分割して毎年七五万円を返済することになつているが、貸付金の返済と相殺するという方法で仲買人組合に助成金として交付することになつているとの点は認める。

16. 抗弁4.(二)(2)について、訴外仲買人組合結成の目的は、同組合の責任において、愛媛農産市場に対し預託保証金(仲買権利金)の一括納付をさせることによつて、市場と各仲買人との煩雑な個別的関係の発生を回避し、市場の売掛金回収の確保を図ったものであるから、それ自体合理的且つ経済的な存在理由があるので、本件七五〇万円の助成金も便宜上同組合に一括交付して処理させたもので、決して偽装手段ではない。

17. 抗弁5.6.は争う。

第三、 証拠

一、 原告

1. 甲第一号証、同第二号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一、二、同第五号証、同第六号証の一ないし五、同第七号証の一、二、同第八号証を各提出。

2. 証人玉井恒栄、同玉井実雄、同桐野典夫、同一色喜三郎、同真鍋貞次郎、同青野浩、同渡返茂、同横山金春、同三宅信宏の各証言、および原告代表者本人尋問の結果を各援用。

3. 乙第一ないし第三号証、同第七ないし第九号証の各一、二、同第一〇号証の一ないし八、同第一一号証、同第一二号証、同第一三号証の一ないし三、同第一四ないし第一九号証、同第二一号証、同第二二号証の成立は認める。

乙第四ないし第六号証、同第二〇号証の成立は不知。

二、 被告

1. 乙第一ないし第六号証、同第七ないし第九号証の各一、二、同第一〇号証の一ないし八、同第一一号証、同第一二号証、同第一三号証の一ないし三、同第一四ないし第二二号証を各提出。

2. 証人星加勝、同玉井恒栄、同真鍋貞次郎、同園延房太、同柴田堅、同真田伊太郎、同金子倉一、同黒光勘三郎の各証言および原告代表者本人尋問の結果を各援用。

3. 甲第一号証、同第二号証、同第四号証の一、二、同第五号証、同第七号証の一、二、の成立は認める。

甲第三号証の一、二、同第六号証の一ないし五、同第八号証の成立は不知。

理由

一、 請求原因1.2.および抗弁1.(但し、営業譲渡代金一、二五〇万円の内七五〇万円を争う。)については当事者間に争いがない。

二、 そこで被告は本件七五〇万円は貸付金でなく、営業譲渡の対価であると主張するのでこの点につき判断する。

成立に争いのない甲第一号証、同第二号証、同第四号証の一、二、同第五号証、乙第一号証、同第三号証、同第七号ないし第九号証の各一、二、同第一〇号証の一ないし八、同第一一号証、同第一二号証、同第一四号証、同第一五号証、同第一八号証、同第二一号証、証人真鍋貞次郎の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、二、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第六号証の一ないし五壬生川青果仲買組合組合長園延房太作成部分については証人園延房太の証言により愛媛農産加工有限会社代表取締役玉井恒栄作成部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証、証人黒光勘三郎の証言により乙第六号証の黒光勘三郎名下の印影は同人の印章によることが認められるので全部真正に成立したものと推認すべき乙第六号証、証人星加勝の証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証、ならびに証人玉井恒栄、同玉井実雄、同真鍋貞次郎、同桐野典夫、同一色喜三郎、同園延房太、同柴田堅、同真田伊太郎の各証言、原告代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、右認定に反する証人星野勝の証言は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(訴外愛媛農産が原告市場を買収する前の事情)

<1>  愛媛県青果市場条例は昭和三七年一〇月二五日制定公布され、従前青果市場の開設は自由であつたのが、免許制に変更されるに至つたが、それより前、両県下では業者間で既成青果市場育成強化と乱立防止のために適正なる県条例の制定が強く要望されており、同県も右要望に副う機運があり、既存の青果市場経営者は右条例の制定により一定地域内における独占的利益を得ることを期待していた。

<2>  訴外愛媛農産(代表取締役は玉井恒栄で同人は愛媛県議会議員であるとともに、訴外周桑青果農協の組合長であつた)は、新たに市場経営を始め(訴外愛媛農産の営業目的は、それまでは農産物の加工販売のみであつたが、昭和三六年九月一〇日青果市場の経営が営業目的に加えられた。)、訴外丹原市場の買収に着手し、昭和三六年六月その買収を終つた。

<3>  右丹原市場は、年間売上高約四、〇〇〇万円で訴外阿部幸徳の個人経営であつたが、訴外愛媛農産は、同人に買収対価として金一〇〇万円、右市場の仲買人八四名に対し助成金二五万円を支払つた。

右買収対価金一〇〇万円には同人が市場経営に使用していた土地、建物の対価は一切含まれておらず、経理上営業権の対価として処理されているが、実質は営業権の対価とともに、訴外愛媛農産が同人を市場長として雇用するのに、規約上月三万円以上の給料を保障することができないので、一時金の形で給与を先払いした分ならびに営業用備品(電話を除く)の対価も相当部分含まれていた。

<4>  青果市場の経営には、土地・建物等の物的設備のほかに、一定範囲の生産者を青果物販買の委託者として掌握すると共に、仲買人をも“せり”の相手方として販売受託の青果物を販売するという市場の営業目的を遂行するための不可欠の相手方として当該市場に専属させている。従つて一般に青果市場を買収する場合、青果市場の物的設備だけの対価に加えて、当該市場がその周辺地域の生産者および仲買人を顧客として掌握している事実関係(営業権)もあわせ評価して営業譲渡の対価とされているのが一般の取引慣行である。

(訴外愛媛農産が原告を買収した経緯とその結果)

<5> 原告は昭和三〇年三月に原告市場の仲買人約二〇〇名をもつて設立され、仲買人は即ち原告の株主である者によつて取引され、昭和三七年当時年間六、〇〇〇万円の売上高があつた。昭和三五年九月一日から昭和三六年八月三一日までの第七期事業年度において、新たに土地を買入れ、市場の建物を新築して事業を拡張したが、仲買人の売掛金の増大に困つていた。(ただし原告の解散当時、原告の常務取締役一色喜三郎、代表取締役安藤竹夫の売掛金が一番多く、原告の役員自ら売掛金増加の一因をなし、また仲買人は即ち株主であるので、必ずしも原告主張のように回収困難な売掛金の増大とは認められない。)その他経営状況は別紙記載の表のとおりである。

(別紙記載の表については当事者間に争いがない。)

<6> 原告の代表取締役安藤竹夫は昭和三六年春ごろ経営不振を理由に訴外愛媛農産に原告市場の買収の申込をしたところ、訴外愛媛農産は周桑郡内の壬生川・丹原地方のすべての青果物を統制することができ、品目の調達、価格の安定上有利であると考えてその買収交渉に応じたこと、また青果市場は仲買人が客であるので、仲買人に育成資金を出して育成していくことが市場経営のキイポイントになると考えていた。

<7> そこで、訴外愛媛農産取締役玉井実雄、監査役桐野典夫と原告の代表取締役安藤竹夫、常務取締役一色喜三郎、取締役真鍋貞次郎らが交渉した結果、おそくとも昭和三七年四月一五日(同月一六日開催された訴外周桑青果農協の理事会において後記の交渉結果が報告されている。)までには次のような内容に話が決まつた。

(一)、 原告の所有する土地・建物・その他一切の財産を五〇〇万円で訴外愛媛農産に譲渡する。

(二)、 仲買人育成のために、訴外愛媛農産は、年間売上額七、五〇〇万円を予定とし、その一歩七五万円の一〇年分七五〇万円を仲買人組合に貸付けること。仲買人組合は毎年七五万円ずつ返済するが、訴外愛媛農産は同額を仲買育成費として交付すること。

なお、右仲買人育成費は買収交渉の過程で買収対価と密接不可分に検討され、訴外愛媛農産は原告の青果市場をひきつづき経営していくためには、名目はともかく、一、二五〇万円を支出しなければ市場経営という本件買収の本来の目的を達成することはできないと考えていたのであり、他方原告の株主(すなわち仲買人)も、原告の解散を承認する条件として、実質的には株主(仲買人)が一、二五〇万円の支払を受けなければ、解散を承認しないのみならず、本件売渡をも承認しなかつた。

<8> 原告において昭和三七年四月二七日の解散総会の日、右の交渉結果を承認して解散決議をなし、同年五月原告代表者代表清算人安藤竹夫が右買収の対価五〇〇万円を訴外愛媛農産より受け取つた。

<9> 右買収対価五〇〇万円の内訳は、土地四〇〇坪(見積評価額三二〇万円-帳簿価額二八五万四、四五〇円)、木造トタン葺建物(建坪二五〇坪)および設備(帳簿価額二〇四万〇、八七五円)、三輪自動車二台および什器備品(帳簿価額一一万〇、三二七円)で(帳簿価額合計五二六万〇、五七三円)あり、右五〇〇万円は土地・建物等の物的設備それ自体の売却代金とみられること。

(仲買人組合の結成と訴外愛媛農産との関係について)

<10> 昭和三七年四月二七日原告の解散総会にひきつづいて、原告株主二一三名を組合員とする壬生川青果仲買人組合が結成され、そこで組合規約が決定されると同時に、初代組合長に園延房太が選ばれた。

<11> 昭和三七年五月三一日訴外愛媛農産と仲買人組合(当時組合長は右園延であつたが、同人が職責を果さなかつたので、同年七月二代目組合長になつた真鍋貞次郎が代行した。)との間において、次のような七五〇万円の貸付契約を成立させた。

(一)、訴外愛媛農産は仲買人組合に金七五〇万円を無利息で貸し付け、仲買人組合は毎年五月三一日七五万円づつ返済すること。

(二)、訴外愛媛農産は仲買人組合に毎年五月三一日に一〇回にわたり金七五万円宛総額七五〇万円の助成金を交付すること。

(三)、前項の助成金交付の方法は第一項の貸付金返済と相殺することによつて行う。

<12> 同年五月末ないし同年六月ごろ、訴外愛媛農産と仲買人組合組合長園延房太(同人は前記認定のとおり組合長としての職務を果さなかつたが、この契約については署名捺印のみ関与した。)との間において、次のような壬生川市場経営に関する契約を締結した。但しその契約書の作成日付は訴外愛媛農産に経営を任した同年四月一日付にさかのぼらせた。

(一)、仲買人組合は、仲買人一人一万円の仲買人権利金を一括して訴外愛媛農産に預託する。

(二)、仲買人が競落代金を月末〆切り翌日の五日までに支払わない時は、訴外愛媛農産は仲買人組合から預託を受けた全仲買人の一括した預託権利金を以つて当該仲買人に対する売掛金回収に充当する。

(三)、前項の充当の方法によつて完済できぬ時はその未済残額につき仲買人組合が別途に支払いの責に任ずる。

(四)、第二項に言う充当により減少した預託権利金については減少した日より三〇日以内に減少する前の額に達するよう仲買人組合が補充しなければならない。

<13> 右貸付金七五〇万円の交付方法は、仲買人組合の世話人の資格で訴外安藤竹夫が同年五月七日金五〇万円を、同月一二日五〇〇万円を、訴外愛媛農産より受領し、残額二〇〇万円は仲買権利金に充当された。

<14> 右仲買権利金制度および仲買人の買掛金について、仲買人組合が連帯保証の責任を負うことは原告の市場経営時代にはなかつた制度である。

(五〇〇万円と七五〇万円の株主(仲買人)への分配状況)

<15> 原告は同年四月二七日解散して清算手続に入つていたが、第一回清算所得の分配として同月同日現在における株主に対する歩戻し預り金の未払額金三八万七、九三一円、預り金の利子未払金四万六、四一七円および借入金未払額一一六万九、九八四円の小計一六〇万四、三三二円と、更に解散時の払込済資本金額三五〇万円との合計五一〇万四、三三二円から各株主一律に仲買権利金一万円、組合費五〇〇円を控除した合計三〇五万二、五二四円を現実に株主(仲買人)に支払つた。しかしながら、原告が被告に提出した昭和三七年五月三一日現在の清算所得の申告書添付の残余財産分配時の貸借対照表(七五〇万円を除外したところの計算書)によると、分配可能財産は現金三三五万四、一五六円となつているから、これを三五〇万円から控除した残額一四万五、八四四円については、資本金額の払戻しができないことになつていたので右残額の一部が七五〇万円から支出されたのではないかとの疑惑があること。

<16> 次に七五〇万円の分配方法については、組合員の意見が分かれ紛糾したので役員一任になつた。役員会では原告の株式の持株数によつて分配するのが相当と考え、持株数により分配すること、および原告の役員に功労金を出すことを決定し、後日総会で了承された。

<17> 仲買人組合は同年五月一六日貸付金七五〇万円のうち六八〇万五、七五〇円を原告株式の持株数に応じて分配し、各仲買人は組合へ仲買育成金借用書を差入れ、また右七五〇万円のうち六一万四、〇〇〇円を次のとおり訴外安藤竹夫外一〇名の役員等に分配した。

安藤竹夫 九万四、〇〇〇円

稲井夏好 五万五、〇〇〇円

一色喜三郎 五万五、〇〇〇円

園延房太 五万五、〇〇〇円

矢野勇吉 五万五、〇〇〇円

真鍋貞次郎 五万五、〇〇〇円

鈴木利鬼三 五万五、〇〇〇円

鈴木増太郎 五万〇、〇〇〇円

吉原元男 五万〇、〇〇〇円

砂田寿江 五万〇、〇〇〇円

柴田堅 四万〇、〇〇〇円

原告の役員は右の他に加藤幸太郎、渡返茂、矢野正美、松本森之助らがいた。

(分配後の事情)

<18> 原告の法人株主として仲買業を営んでいる者のうち、訴外真田商店株式会社(代表取締役真田伊三郎)は育成資金二万三、八一一円を、訴外周桑農産加工農業協同組合(組合長理事黒光勘三郎)は育成資金二万〇、〇五五円をそれぞれ雑収入として記帳している。

<19> 貸付金の第一回返済日である昭和三八年五月三一日ごろ各組合員より貸付金の返済を受け、仲買人組合は七五万円を訴外愛媛農産に返済して、同時にそれを助成金として交付を受けたこと、その後訴外仲買人組合は貸付金返済のための集金は一切していない。

三、被告主張3.(五)はこれを認むるに足る証拠はなく、同3.(六)は右七五〇万円が全部営業の対価であるとの根拠にはなりえない。被告主張3.(九)(3)(ロ)の訴外有限会社金子商店が貸付金を出資金の払い戻しである旨確認したとの点は、これに符号する乙第四号証は証人金子倉一の証言に照らして措信できず、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

四、そこで以上の事実を前提として七五〇万円が営業権の対価であるか否かについて検討する。

1. 右認定事実<4><9>のとおり、一般に青果市場の買収には営業権の対価が支払われるのに原告の主張する営業譲渡の対価五〇〇万円は原告市場の物的設備だけの対価にすぎず営業権の対価が支払われていないこと。

2. 右認定事実<1><2><6><7><8>により、訴外愛媛農産は丹原市場に引き続き原告の壬生川市場を買収したので愛媛県市場条例の制定を間近に控え当該地域に独占的経営が成立する可能性が大であつたこと。

3. 七五〇万円が仲買人育成資金ならば、その趣旨からして仲買人に平等又は過去の買付量によつて分配するのが合理的と考えられるところ、右認定事実<15><16><17>のとおり、原告の株式数に応じて六八〇万五、七五〇円を分配したのは、原告自身七五〇万円は仲買人の育成資金ではなく、営業譲渡の対価と考えていたふしのあること。

4. 右認定事実<3>によると、訴外愛媛農産は丹原市場を買収するにあたり営業権(一〇〇万円の相当部分)を支払つているのだから、同じ買主が同じ時期に同じ青果市場を買収するに際し、原告に営業権の対価を支払つていないのは不自然であること、しかも、その際丹原市場の仲買人に支払つた助成金が二五万円であるのに、原告に助成金として支払つた金額は七五〇万円であつて、その規模の相違を考慮しても、余りにその金額に相違があること。

5. 右認定事実<18>によれば、原告の株主の中には育成資金貸付を雑収入として収理し、仲買人育成資金の貸付を受けたとの意議のないこと。

以上の点にかんがみれば、右七五〇万円の中には営業権の対価が含まれていることは動かしがたいところである。

五、しからば、右七五〇万円の全額が営業権の対価かと言えば、以下の理由により、全額営業権の対価とは言い切れない事情が認められる。

1. 右認定事実<5><12>により、訴外愛媛農産が七五〇万円の育成資金を出す条件として、原告が従来安易に放置してきた売掛金の増大を防ぐため、仲買人および仲買人組合に原告の市場経営時代にはなかつた厳しい責任を負わせていること。

2. 右認定事実<13>によれば、七五〇万円のうち二〇〇万円は訴外愛媛農産が仲買権利金に充当し、仲買人および仲買人組合のために使用されたこと。

3. 右認定事実<3>により、訴外愛媛農産は丹原市場を買収するに際し、同市場の仲買人八四名に二五万円の仲買人育成費を支払つているのだから、同じ買主が同じ時期に、同じ青果市場を買収するにあたり仲買人に育成資金を支払つていないのは不自然であること。

4. 右認定事実<6><7>のとおり、青果市場は仲買人が客であり、仲買人を育成することが、今後の青果市場を健全に運営していくためには必要なことであり、そのため訴外愛媛農産は仲買人育成資金を出したこと。

六、以上のとおり、七五〇万円は営業権の対価と仲買人育成費金との両者を包含したものというべく、被告主張の如く全額営業の対価であると言うことはできない。しかして、七五〇万円中に占める営業権の対価の割合については被告において主張、立証しないところである。

七、被告主張の抗弁5.6.について、以上の判断のとおり、仲買人組合が法律的経済的にも仲買人育成資金を受領する合理性も必要性も認められるのであるから、七五〇万円全額につき原告が経済的利益を享受しているとも言えず、また租税回避行為とも言えない。七五〇万円のうち一部営業譲渡の対価が含まれているが、被告においてその割合について主張立証がないことは前述のとおりである。

八、以上のとおりであるから、仲買人育成貸付金七五〇万円を営業権の対価であるとの前提にもとづく本件更正決定および重加算税賦課決定は理由がないので取り消すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋山正雄 裁判官 梶本俊明 裁判官 馬渕勉)

別紙

<省略>

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